50周年コンサートが始まっている。
その最初のビッグステージが、みなとみらいコンサートホール大ホールで行われた。
その日は活動40周年の明兄との共演で、オーケストラをバックにオペラアリア(千住明編曲)や千住明作品を時間の限り演奏する、という華やかなコンサートだった。
前日から明兄とドレスと衣装の相談をした。記念コンサートだからこそのステージを表現するために、前半と後半と、プログラムに合わせて、着替えよう、と決めた。
開演5分前。
いつにもましてワクワクと高鳴る気持ちを抑えつつ、バックステージで楽器ケースを開けて開演を待つ。
舞台下手ののぞき窓から客席の様子を確かめていた明兄が、フッと表情を和らげて私に近づいて来てささやいた。
「まりちゃん、なんか、まりちゃんのともだちが最前列にたくさん居るよ〜」
明兄は、何かとても面白いものを見てしまった時のように、少しいたずらっぽく笑った。
え?一列目と二列目??わあ、目が合うなあ、、、どうしよう、恥ずかしいなあ、、、。と、困ったような顔をつくりながら、内心私は飛び上がりたいような、心ウキウキとした嬉しさが湧いて来ていた。目を合わさないようにした方がいいのか、しっかりみんなと目を合わせようか、、、どうしようかと戸惑ってる間もなく本番のベルが鳴る。
ステージが本番灯に変わり、ステージマネージャーがバックステージのドアを開けて「さあ、どうぞ」と促した。
いつものように、そして50周年記念というスペシャルコンサートへのワクワク感でステージへ足を踏み出すと、、、!
早速、最前列と2列目、ど真ん中のともだちグループが、ニコニコしながら何やら「黄色い枠の四角いもの」を手に持って私に向かってそれを振っている。
わあ!あの手に持ってるものは、今回50周年記念グッズとして限定販売を始めたフェイラーのタオルハンカチだ!千住博兄が富士山をモチーフにして描いたデザインをフェイラーが仕上げた特別な作品。
それを早速購入してくれた友人達が私に見せている。思わず笑いが溢れて、隣に立っている兄も一緒になって、ウケていた。
ステージに出た途端の、本来ならば演奏者も客席も少し張り詰めたような時間。緊張感が解けないまま動き出す本番、、、。それが目の前の友人達によって、ふわっと溶けた。
喜びとワクワク感で弾き始めた曲は、『ほんまもん』(NHK朝の連続テレビ小説)のテーマ曲〜『君を信じて』、曲想もちょうど明るく希望に満ちた曲であり、気持ちと音楽が重なり良いスタートを切ることが出来た。
そして2人で改めてご挨拶トークをするため、指揮台に置いてあるマイクを手に取った。
その途端、だった。
驚く光景が目に飛び込んできた。
なんと彼等彼女達が横断幕を広げたのだ!
『明さん、デビュー40周年おめでとう!
マリ、デビュー50周年おめでとう!』
ステージ人生50年で初めてのこと!
クラシックコンサートではまずこういうことはないだけに、全く予想しないサプライズであり、驚きと共に喜びが噴き出した。
あー、私は今年デビュー50年になるのか!!
改めて、そしてなぜか初めてそんなことに気がついたような、とても新鮮な喜びが湧いて来た。
最前列で横断幕を広げ満面の笑みで私に手を振ってくれている友人達。
友達との幼い頃からの様々な思い出場面が瞬間的に走馬灯のように浮かんできて胸が熱くなった。
私が中学生時代、コンサートで疲れて、凝り固まっている肩を友達が交代で揉んでくれたこともあった。辛いことがあってトイレで隠れて泣いていた時も、優しく声をかけてくれた友達だった。
横断幕をじっと見ながら嬉しくてしばし言葉を失いながら、「あ、これが見えてるのはステージ上のオーケストラと私達、そしてステージ後ろのお客様だけだ」と気がついた。明兄と私が、ありがとう有難うと何度も言いながら、「後ろを向いてみなさんにもお見せしてください」と言うと友人達はくるりと後ろを向い約2000人の客席に横断幕を広げてくれた。
会場の皆様から温かい拍手が改めて沸き起こって、心和む空気が広がった。
あー、デビュー50周年なんだあ!とつくづく感じ入ることができた私は、心の底から感謝の気持ちを込めて、思いの丈ストラディバリウス・デュランティに歌ってもらったコンサートとなった。
友人達は当然私と同い年であり、つまり当然60代であり、、、皆戸惑いながら、恥ずかしい気持ちもありながら、みんなで相談しながら準備をしてくれたのか。そして後から聞いた話では「主催者さんに叱られるかもしれない」とビクビク怯えながら、どうしよう?と悩みながら、それでもステキな横断幕を制作して、それをみんなで広げてくれたのだ。
それを思うたび胸が熱くなった。
ここで横断幕を広げる中にいなかった友人達も、一人行動で来てくれた友達も、それぞれ、良かったね、と声をかけてくれた。
聴衆の方の中にも、終演後のサイン会の時に「一緒に横断幕を広げているような気持ちでした!」と言ってくださったり、「見てる方も心温かくなりました」「ステキなお友達ですねー!」と優しく笑ってくださった。
InstagramやFacebookのコメントでも「ほのぼのが伝わった」旨のコメントが嬉しかった。
私はこの暖かさをエネルギーに、50周年、ステージ上からたくさんの「ありがとう」を、たくさんの「愛」を、音にしたいと思う。
私に出来ることは気持ちを音にすること、だからー。
