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Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2024 年 6 月
クルーズ船

クルーズ船に乗船しての演奏は10回以上になる。もう10年以上乗ってきた。
もちろん毎回、客船内で演奏するためであるから、お客様は例えば日本一周だったとしても私達パーフォーマーは演奏する前の港で乗り込み、演奏し終われば次の港で下船する。
最初はドキドキした。
どちらかと言えば海の上で何日も過ごすことへの苦手意識があった。
広くて深い海の上に浮かぶ船、、、。慣れてないので何が起きるかわからないのではないかと怖かった。どのくらい揺れるのか、安全性は大丈夫なのか、揺れて船酔いしても当然降りられないだろうから、そうなればピンチだ、とか切り抜ける手段はあるのか、どうすればいいのか、、、。しかし、想像を変えた魅力が、クルーズ船には、あったのだ。

豪華客船、私が今まで船内で演奏会を行ってきたのは、飛鳥Ⅱ、にっぽん丸、だ。
いずれも立派なビルが海に浮かんでるほどの豪華さ、船内には必要とされるあらゆる施設が備えられている。レストランも複数あり、日本食から中華、フレンチ、或いはハンバーガーやホットドッグ、アイスクリームや様々なケーキなどいつでもなんでも食べられるし、乗り込んでしまえば基本フリーでいわば食べ放題状態。
スポーツジムやヨガ教室もあり、プールもあるし、私は甲板をひたすらぐるぐると歩き回るのが常になって来た。
ヘアサロン、エステサロン、マッサージはもちろん、大浴場にはサウナもついていて、毎日その日の終わりにはリラックス出来る。
趣味を増やせるほどの様々な教室へも自由参加、映画館、麻雀ルームなんかもあった。医師が必ずいつでも居るクリニックもあるのが安心だ。
無いものは、ない。

初めの頃まず、感動したのは船の汽笛だ。
陸を離れる時の汽笛は人の声に聞こえる。切なく懐かしく、海に空に吸い込まれていくボーっという音がいつまでも心にとどまる。
その汽笛と共に少しづつ少しづつ、陸を離れていくクルーズ船、陸側に知り合いが居なくても手を振りたくなる。一期一会の他人が恋しく、遠ざかる人、ひと、ヒト、、、。
陸ではその土地ゆかりの踊りや歌で別れを惜しんでくれるのがまた、胸にしみる。遠ざかっても、声が、音が、聞こえないほどになっても鳴り止まない踊り、歌、また来てねーと叫び続ける声。
大海原に繰り出したクルーズ船は静かにゆっくり、そして安定感を持って私達を守ってくれてる、と感じながら、私は長く波を見つめる。
次第に陽が沈む様子も、徐々に陽が昇る景色も、言葉では表現出来ないほど心が揺さぶられる。
生きているんだなあ、と思う。
そして今までの人生を振り返り、これからどこまで続くのかわからない残された人生を、想う。
いつも忙しく走り回って来た私のセッカチすぎる日常生活は、クルーズ船乗船によって少しは緩和される、かもしれない。少なくとも乗船の期間は時間がゆったりと流れ、それに従って動くようになる、、、。

さて、しかし時には大きな波に船が激しく揺らされたこともあった。
流石に立っていられずに私はベットでずっと横になっていた。そんな時は食欲も出なかったし、演奏が出来るかどうかがとにかく心配になって、気持ちを強く持とうと頑張った。ステージに出るとロングスカートの下の皆様に見えない足を大きく踏ん張って、その上ではにこやかに笑顔を見せながらトーク&演奏、、、本番は不思議と酔いもなく弾けるものなんだなと感じた瞬間でもある。

先月5月、
初めて明兄と共に演奏のため乗り込んだにっぽん丸。
明兄との初めての船旅は、とても新鮮で穏やかな波に守られながらの心地よいクルーズだった。
先輩ズラして色々案内したり、施設を説明したりするのも、なんか嬉しかった。
私は船旅が、いつのまにか好きになっている。