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Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2024 年 3 月
3月

梅の花が咲き、桜が待ち遠しい3月。
春一番が吹くと、春はもうそこまで。

幼い頃はひな祭りがビッグイベントだった。祖母が押し入れから出してくれる雛飾りのお人形たち。大切に柔らかい紙にひとつづつ包まれたお雛様やその小さな小さな道具の数々を、母、祖母と一緒にひな壇に飾るのだ。
全部飾り終わるとき、母が作ってくれたばら寿司をみんなでいただきながら、新しく4月から始まる新学期の話に花が咲く。

翌日、3月4日が母の誕生日だった。3月3日の雛祭りの続きはワクワクが重なる楽しみな3月の始まりだった。
お飾りしたお雛様を再び柔らかい紙に丁寧に包んで箱に入れ、そっと押し入れにしまう時、祖母は必ず「また来年、お会いしましょう、お雛様!成長したまりちゃんを見てくださいね」といって箱の上からそっとなぜるのだった。

いよいよ三寒四温が始まると縮こまっていた身体も思いっきり伸びをして、お散歩やジョギングの距離も伸びてくる。

母の誕生日には何をプレゼントしようかと考えるのも楽しかった。母は何が喜ぶかな、どんな顔して喜ぶかな、と想像しながら兄と相談するときもあった。そんな思い出がたくさん詰まっている3月だ。
きっとこれならいい喜んでくれるに違いない、とお手製の肩叩き券、お手伝い券、足踏み券など紙に書いてプレゼントしたなあ。
あ、足踏み券って言うのは、母をマッサージする方法のひとつだ。母がソファーにうつ伏せになって、その上から私が立って乗っかり、重心を取りながら足の指先を使って背中や腿などを踏むことなのだ。
小さかった私は手では力が弱くて効きが悪い、らしかった。母から言い出した提案が、
「まりちゃん、足で乗っかってみて!」と。なんか面白い、と私はキャッキャ言って母の背中に乗っかろうとするが、当然たいらではないのでなかなか上手く乗ることが出来ない。右に落っこちたり、左に転げたり、それがまた楽しくて、どうやって乗っかれば落っこちないで、しかも母のこってるポイントを足の指先で指圧風に出来るか?横の壁に手をついて支えながら立ってみたり、色々研究しながら、私はだんだん上手くなっていった。

そのうち、「まりちゃん、乗っかって!」とリクエストを受ける日が多くなり、私は得意になって、足の指先でキュッキュッと圧す。
母は私のヴァイオリンのレッスンに運転してついてきてくれたりしながらの家事をこなしていたので猛烈な忙しさだった。へとへとに疲れているに違いない身体をほぐす手助けに、あれでもなっていたのかな。
だから、その足踏み券は、母が本当に喜んで使ってくれていた、私のプレゼント!

私がだんだん大きくなるにつれ、私が乗っかると痛がることが増えて行ったので、次第に終わっていった思い出。
そんな思い出の節々が、断片的に思い出されるのが3月。
母のお墓にお花を供えにいきたくなるのもやはり、この時期だ。
3月が忙しくてなかなか行けない時には4月の自分のバースデー近辺には行く。

3月は母が恋しい。