空を飛ぶ夢を、たまにみる。
そんなに頻繁には見れなくて、数年に一度か十数年に一度位だ。
とても不思議な感覚は、起きてからもくっきり覚えている。
なぜ飛べるのかなんて、その時は何の疑問もなく、私は飛べていることが楽しくて、自由自在に好きな場所を飛び回っているのだ。
その不思議な夢は他のどの夢より鮮明に覚えていて、いつも幸せな気持ちになる目覚めだ。
昨晩、久々に私は空を飛んだ。
嬉しかった。
それも鮮やかなカラーの大変珍しい夢。
場所はとてもきれいな湖の上で、透き通った湖は薄い青色に中が透けている感じがした。湖の周りの木々が緑に色づいていて、その間にある花々が、みたこともないほど色とりどりの色彩を放っていた。
なんて美しいんだろう。
私は夢の中で、とても感動している。私は何度も、綺麗だ、綺麗だと心で叫んでいた。
恐らくこの世にないような色とりどりの花、空が夕焼けなのか朝焼けなのか、吸い込まれていきそうだ。
まるで絵画の中に迷い込んだように、どこなのかわからない美しい湖畔の周辺を、私は鳥みたいに飛び回った。
目が覚めた。
あ、夢。
嬉しい夢。
空を飛べた楽しい夢。
美しかったなあ、あんな場所、どこかにあるのかなあ、静寂な世界だったなあ。
夢を反芻しながら、私はしばらくボーッとしていた。
あまりに鮮やかな光景だったから、衝撃も大きかった。目が覚めても、動きたくなくて、ただじっと夢を思い出していた。
覚えておきたい。
何度も思い出して、映像を反復した。
ステージで演奏することは、空を飛ぶ夢とよく似ている。ふとそんなことを感じたのも、目覚めたあとだ。
ドビュッシーやクライスラー、ベートーヴェンやバッハなど、様々な色合いの見たこともないような素晴らしい世界。そんな世界を私はヴァイオリンと共に自由に飛び回る。
イメージすればどんどん膨らんでいく未知の世界を、音で探索することが出来る。
ステージで、幻想的な世界を自由に飛び回ること、なぜ飛べるのかなんて考えた時には一瞬で現実に戻ってしまう。まるで魔法が解けたように。現実の世界を意識したら、イメージの世界は消えてしまうのだ。
だから音の創り出す世界だけにフォーカスを絞って、ただ音色に耳を、心を集中させる。
そうすれば音は、作曲家の誘う未知の景色を存分に体感させてくれるのだ。もちろん、そのどの瞬間も、多くの聴衆と共に感じることが出来る。
ステージから降りて、その「夢」から覚める。
そしてまた、素敵な音楽の夢の世界に入っていきたい、と思うのだ。