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Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2022 年 10 月
台風

数年前までは、春には春の穏やかな陽射しが、夏には気持ち良い暑さの中で蝉の声を聴き、秋になると少しずつ涼しい風に変化していき「芸術の秋」と言われ、冬の気配と共にクリスマスコンサートシーズン、乾燥した空気に雨が雪に変わって…。
そう、どの季節もその移ろいを味わうことが出来たし、またそれぞれの季節が好きだったのに…。
なんだか季節感がなくなってきたようだ。しかも集中豪雨や巨大台風、「今までに経験したことのないような…」という言葉が頻繁になり、川の氾濫や雨の浸水が当たり前のようにニュースで流れるようになってきた。
演奏会というのは一年以上前から、当然の事だが、何月何日何時何分、と決定される。
体調や練習もさることながら、どんな台風が来ようが豪雨が心配であろうが、コンサートが中止にならない限り何とかその場にたどり着かなくてはならない。
演奏活動を行なってきたこの何十年もの間、幸運にも、とにかくたどり着くことに成功してきた。ありがたいことだ。
時にピンチに見舞われたことだって、ある。
飛行機が現場まで飛んだにも関わらず舞い戻ってきてしまい、「え〜!!それは無いでしょ〜!!」と心の底から絶望感が湧いてきたこともあったが、次の飛行機も条件付きでのフライトと言われたにも関わらず、一か八かで再び乗ってみることにトライして、現地着陸成功。オーケストラとのコンチェルトだったため、もちろんゲネプロは無く、オーケストラの序曲が始まったあたりに着いて、楽屋に行く時間もなくステージの下手でドレスに着替えた、ということもあった。
飛行機が天候不順のため予定外の土地へ着いてしまったり、車で高速道路の事故大渋滞に巻き込まれたり、台風で新幹線が止まって車内に乗ったまま動かなくなってしまったり…様々なピンチをくぐり抜けてきた。

さて今年も台風のシーズン到来で、どのように台風と対峙するか、このところ戦々恐々である。
つい先月も、「危険な台風」と言われる台風のため、仙台のコンサートの後東京に帰らないことを決めたのは仙台から新幹線に乗る直前だった。
そのまま、着の身着のままであったが、新幹線を乗り継いで京都へ向かった。まさに、こちらに向かってやってくる台風目掛けて突進!という感じだった。

まだしばらくは、くまなく天気予報を確認し、台風の大きさや進路、それによる交通状態を逐一チェックしながら、コンサートの前日に会場近くまで行ったり、飛行機や新幹線が満席になる前にキープしたり…。
そして、ステージに立つ。
天候が不安定な中、沢山の聴衆の方々のお顔が私を見てくださっている、演奏を聴こうとしてくださっていることに、言い表せないほどの「ありがとう」という気持ちが膨らむ。
一期一会、その日に聴いてくださるその方の心に届くように!と。

秋、コンサートシーズン、台風もシーズン!
でも、必ず行きます!待っていてね。