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Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2020 年 2 月
NHK報道番組の思い出

NHKで大人気のキャスターとして大活躍された 磯村尚徳さんが卒寿を迎えられたお祝いの会があった。つまり90歳ということだ。
懐かしいNHKのスタッフの方々にもお逢いできるということで私はなんとか時間を工夫して出掛けた。

そもそも私と磯村さんとの出会いは34年前にまでさかのぼる。
大学を出たての私が、バイオリンから暫く離れていて、再び楽器に向き合おうかともがいていた時期だ。大きな挫折を味わい苦しい20代を過ごしていたその時期に、NHKの大型報道番組から、何故か私なんかに声をかけられた。

迷っていた私の背中を押したのは父親であり母親だった。
「真理子がこの先音楽を携えて生きていく上で、経験できないような深くて幅広い知識と経験を学ばせて頂きなさい」と言われ、私はその一歩を踏み出した。
磯村尚徳さんのもとに、選び抜かれた海外特派員、若きプロデューサー、ディレクターたちが集められ、「ワールドネットワーク~世界はいま」がスタートしたのだ。
月に一度の2時間半にも及ぶその大型報道番組で、磯村さんの隣に立たせていただいた私は、サブキャスターと紹介されたが、畑違いに身をおくと自信もなく、とても不安定な立ち振舞いだった。
磯村さんや、PDやスタッフみんなが、細かく指導してくださり、なんとかテレビの前に立てたというのが実情だ。当時の名物理事とも言われたNHK島理事からは「君はバイオリニストらしいが、この番組に出るからにはバイオリンやめてもらう覚悟で真剣にやってもらわなけれはいかん」と言われ、びっくりしている私にチーフPDは「バイオリンやめないでいいですから!」と慌てた様子でフォローしてくれた。
月に一度、10日間の海外取材に出掛ける。私の担当は文化面だった。毎回代わるPDと共に自分の目で確かめ、感じ、発信する。帰りの飛行機の中でレポート15枚(400字×15)そのレポートをもとに編集作業がなされる。
書くこともしゃべることも、ずいぶん学んで鍛えられた。

大変なご恩がある「磯村ファミリー、ワールドネットワーク」のスタッフに会えることは感動しかない。
久しぶりの磯村さんはご年齢を感じさせない若々しさ、現役時代を彷彿とさせるダンディーなお姿とおしゃべり、また奥さまが憧れるほど素敵で、私の目標だ。会に集まった方々は髪の毛に白いものがふえ、素敵に歳を取られてる。ああそうか、もうあれから34~5年経つんだなあとしみじみ感じる。

生きるって、いろんなことがあるけど、過ぎてみればどんなことも懐かしくていとおしい。苦しくても、もがいても、必死に前を向いて頑張っていれば、あとになって「清清しい」と感じれるものだ。
だから今年も、頑張ろう!