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Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2020 年 3 月
愛しのイザイ

今年のデビュー45周年記念演奏会として、企画のひとつである「イザイ無伴奏ソナタ全曲演奏会」がいよいよ3月に予定していた。
だが、新型コロナウイルスの影響で、横浜市青葉区のフィリアホールでのイザイ全曲、並びに、京都コンサートホールでのイザイ全曲が今回延期となった。(3月3日現在)

さて私が夢中になるイザイという作曲家、もしかしたら一般的に馴染みがないかもしれない。だから聴くほうにも、覚悟を強いられるのかも?とも思うが、私は愛してやまないのがイザイなのだ。
そもそも無伴奏で演奏する6曲のソナタ、当然ステージにはピアノもなければ譜面台もなにもない。なあんにもない地味なステージに独りで立つ。最近ではそれが寂しく、せめてハンカチおきだけを、ポツンとおかせてもらってる。
曲は、それぞれが超絶技巧を交えながら、哲学的ともいえる内面の表現を音に組み入れている。

そんなイザイ、何故好きになったのか。

私自身20代に挫折の連続で、悩み苦しみ、なかなか立ち直れず、まずは無伴奏バッハを人前で弾くことができなくなっていた。一音も、だ。大好きなバッハは一生私には弾けないと嘆いていたときに、イザイが目の前に現れた。つまり、ふと楽譜が目に入ったのだ。
自宅の部屋で音に出してみると、イザイの音楽の深淵がぐっと心に染み入った。弾いて弾いて、私は弾き続けた。自分自身のために。
イザイの、実に人間臭いほどの嘆き、悲しみを訴える強い叫びや絶望の呟き、そのすべてから私は離れられなくなった。
そして私はイザイ全曲をまずは演奏会で弾くようになり、そのことがきっかけで、バッハが人前で弾けるようになっていったのだ。だから私のバイオリン人生において、無伴奏のイザイとバッハは欠かすことが出来ない。

デビュー20周年の時をスタートに、5年毎に、イザイ無伴奏ソナタ全曲演奏会とバッハ無伴奏ソナタ&パルティータ全曲演奏会を行うことを、自分との約束、とした。
イザイという人は、ベルギーの音楽家だ。バッハを尊敬していたバイオリニストであり作曲家だったひとだ。だからバッハの無伴奏曲の演奏会を聴いたあとに、その芸術に触発されて一気にこの6曲のスケッチを書き上げたという。
1曲づつがその時代に活躍した名バイオリニストに捧げられついるのも素敵だ。だからか、それぞれが個性的で、性格の異なる曲になっていて興味深い。

ごく最近、実は、この6曲以外に「未完成ソナタ」なるものが発見された。3楽章形式の第三楽章が途中までしか書かれていない。
弾いてみた。
イザイ悩んだ曲?ということが理解できた気もする一方で、イザイらしい繊細さも垣間見える。さっそく急遽レコーディングしたCD、出来立てホヤホヤが3月発売だ!
何故、イザイはこのソナタを全集に入れなかったのか?何故未完成でやめたのか?やめたわけではなく(体調などの理由で?)やめざるをえなかったのか?様々な臆測をよぶが、皆様はどのように推察するだろうか?


<3月3日追記>

公演延期の告知に伴い、一部文言を修正・加筆しております。
なお、公演延期となった以下公演に関する詳細は主催者HPにてご確認ください。

3月7日(土) 神奈川 フィリアホール
http://www.philiahall.com/html/series/200307.html

3月14日(土) 京都 京都コンサートホール
http://www.otonowa.co.jp/schedule/senju