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Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2019 年 12 月
ステージ靴

12月になると、ウチの中のかたずけや捨てるものなど、新年に向けて何かと整理をしたくなる。

特に私は来年、デビュー45周年を迎える。45周年…? マジか!? と我ながら驚くが、デビューが早かったから、そうなるのだ。
だから来年は様々なコンサートに加えて、5年ごとに自ら決めている「無伴奏イザイ全曲一晩コンサート」や「無伴奏バッハ全曲一晩コンサート」「コンチェルトリサイタル」などがある。無伴奏の全曲演奏は誰に頼まれた訳でなく、デビュー20周年から始めている自分との約束。滝に打たれる修行のようなものだ。
そんなのがあるから、この12月はコンサートの合間を縫って、来年に向けて心身ともに整頓された状態にしたいのだ。

かたずけを始めたとたん、目に飛び込んで来たのが、ボロボロになりかけたステージ靴だ。
ステージ靴を私は革靴専門店であつらえている。革靴だから長持ちするが、15年以上前にあつらえた金、銀、白、黒のステージ用革靴。流石に年90回程のコンサートでもうダメになってきた。

これを新しくしよう。

バイオリンの場合ステージ靴は非常に重要だ。音を作る。
楽器を顎とサ骨で挟み(私は肩あてを使わない)楽器の振動をじかに骨で受け止める。全身の骨に響きが伝わる骨伝導を体で感じ、低音は足元へ、高音は頭上へ。そして足元へ伝った低音は更に靴底を通してステージの床へと振動が伝わるから、靴は楽器の延長線、響きの補助になる。
ステージ靴は、しかも演奏で揺れる体を支える重要な役割をも担う。
立って演奏するソリストの場合、バイオリン奏者は体重移動を左右に移動させながら音に変化をつける。勢いを持たせたり、重圧を加えたり、遠くへ飛ばしたり、様々なニュアンス造りに足が役に立つ。

というわけで、私はさっそく行きつけの靴屋に行った。
改めて足裏を測定し、動きやすい靴を革で造る。
金、銀、銅、黒、白と色とりどりを造り、いまから先の私を、ステージの演奏を支えてくれる大切な、新たな相棒が完成だ。

コンサートへおこしの皆さま方、来年は時折私の足元にもご注目を!