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Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2019 年 11 月
音楽のちから

東北の被災地、2011年3月11日の巨大地震と、それに伴う原発事故、その復興はまだ道半ばだ。

完全に復興が完了するまでは、毎年ボランティア演奏の訪問に出向きたい、と思って始めた被災地での演奏。
今回は、10月8日から12日まで福島県を予定した、朝日新聞社主催の被災地ビジットである。
あの史上最強と言われた台風19号が太平洋の南で渦を巻き始めていたことなど、その時私たちは知るよしもなかった。
東京を出る前日になって「今度の台風はどうも、かなり強くてかなり大きいらしい。日程を短縮しましょう」と、聴きに集まる方々の安全にも関わるため地元のかたと話し合った。

一日目にいわき市、双葉南北小中学校、久ノ浜中学校、富岡漁港、こいと旅館。 漁港ではすでに波は荒れていたが漁師の方々が集まって、演奏に耳を傾けてくれた。
初めは「俺たちにはクラシック音楽はかわらないな」ともらしていた人も目に溜まる涙をぬぐいながら聴いてくれた。
学校での子供たちの目の輝き、旅館の女将さんがたの苦労を伺ったあとでの演奏は、私の方もグッとくるものがあった。
次の日は錦公会堂や久ノ浜漁港、大熊町役場でも演奏が出来るような準備を万全に整えていて下さっていたのに、二日目はもう台風が来るから、と予定は延期となった。
11日のボランティア演奏を次々と訪問しながら、同時に台風19号が、考えられないほど最強な状態でやってくるというニュースが流れていた。
翌日12日の交通機関はすべて運休となることを知って、急遽11日の演奏訪問を6時頃に終了した後、私たちは急いで東京へ向かって列車に乗った。
こんなに19号が恐ろしい爪痕を残すとは考えもしなかった私たちは、帰るときには早々と「延期についてはさっそく11月にリベンジしに来ましょう」などと皆のスケジュールを確認しあったりしたのだ。
しかし、そんな甘いものではなかった…。

台風19号による河川の氾濫、防波堤の決壊、暴風による甚大な被害。
犠牲になってしまわれたかたの数が日に日に増し、いったい何が起こってしまったのかと思考が止まるほどの衝撃が日本中駆け巡る。
さらにその後、台風21号で再び河川が氾濫、土砂崩れ、交通マヒ。災害は畳み掛けるように襲いかかり、容赦ない。千葉では台風15号から始まる災害が重ねて降りかかってしまっている。
こんなでは11月に延期のいわき市へのボランティアなど到底無理である。
私など音楽家の、まだまだ出る幕ではないことを悔しく無力感を思い知る。この思いは災害があるたびに、私たちアーティストが思い知らされることだ。
ただただ願い、祈るしかない。
そして、時間が経ち、いつの日かまた望まれれば、私たちは駆けつけよう。その心に寄り添いたい。音楽によって 聴く人の魂にエネルギーをそそぐことが出来るなら、そんな悦ばしいことはないが台風の被災地は、まだまた音楽のちからはおよばない。