1. Home
  2. Essay
  3. 歌声の響き~だんじゅかりゆし

Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2019 年 3 月
歌声の響き~だんじゅかりゆし

「静かに始まろう」
誰からともなく私たちはそう言い合うと、意気投合し、4分ほどの曲にストーリーを込める相談をした。
三浦大知、千住明、そして私の三人が初めてリハーサルをしたのは本番二日前だ。
私にとってクラシック以外の曲、というのも慣れないことだったが兄編曲となれば安心感もある。
歌手、三浦大知というアーティストは凄い。
まだ30代になったばかりだと思うが、音楽の魂は成熟していた。
私は驚いた。
ダンスが並外れて上手いということはもちろん知っていたが、今回はダンスを完全に封印したのだ。
歌う場は、2月24日の天国立劇場における、天皇陛下在位30周年記念式典でのステージ、である。
沖縄出身の三浦大知が歌う歌、それは天皇陛下が唄をおよみになり皇后様がそのお唄に曲をおつけになって完成された「歌声の響き」であった。
その原曲をもとに兄の千住明がアレンジをほどこして、今回の曲が完成された。
原曲「歌声の響き」は1975年、両陛下が沖縄のハンセン病療養所をご訪問になったときのことを唄われたうたである。
その際、両陛下が訪問されたことに感動した人々は両陛下に向けて感謝を込めて、沖縄民謡「だんじょかれよし(だんじゅかりゆし)」を歌った。その曲は沖縄の船出歌として歌い継がれてきた有名な沖縄民謡であるが、両陛下がお帰りになるお姿に向けてこの「だんじょかれよし」大合唱が沸き起こったという。
兄による編曲は、なんと、この2曲(「歌声の響き」と「だんじょかれよし」)を1曲につくりあげたものだった。
であるから、冒頭に書いたようなストーリーを込める必要があったのだ。
始めは静かに、次第に心が熱くなるように。
ステージで、三浦大知は千住明のピアノの誘いを受けるように、静かに気持ちを抑えながら、絞り出すような声で「歌声の響き」を歌い始めた。
次に弾き始める私のメロディこそが「だんじょかれよし」であり、まるで想い出の先から聴こえてくるようなアレンジが私は気に入った。最後に2つのメロディを同時に歌い、演奏し、終わる。
魂が沸き上がる思い、それは両陛下の愛情であり、沖縄の方々の想い、三浦大知の想い、そのすべてを千住明が束ねるようにつくりあげた曲だったからに違いない。
翌々日の26日、宮中お茶会にお招き頂き、両陛下、皇族の方々からお褒めのお言葉を承った。身にあまる光栄であった。
来月1日には新元号が発表される。
平成最後の記念式典、そしてお茶会は、感無量であり大変感慨深いものがあった。
私の人生においても忘れ得ぬ大切な想い出となった。


*文中は、三浦大知氏、千住明氏の敬省略とさせていただきました。