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Essayエッセイ

エッセイ「心の音」

2018 年 8 月
早食い

「食事は5分」と恩師に教えられたのは12才の時だ。
恩師・江藤俊哉氏は恰幅のいい巨匠であり、私が憧れ尊敬するヴァイオリニストであった。
12才でプロデビューした私は、デビュー当時、江藤先生とステージを共にしながらステージ上での演奏方法を身につけていった。
演奏前には先生と共にステーキを食べる。「演奏するには体力、筋力。なによりステーキだ」と先生に教えられた。ステーキが運ばれて来るたび、先生はおっしゃる。
「5分で食べなさい」。
先生を観察していると、2~3回噛んで呑み込む早さだ。すごい。それもまた、12才の私にとって憧れる要因のひとつに加わった。
先生に習って私も急いで呑み込む努力をした。
こうやって12才にして習得した早食いは私の演奏生活を機敏に回す手がかりともなった。
重ねて、我が家では父が時間に厳格だった。一日にタイムスケジュールをもうけ、食事は長くても15分以内になっていた。
何か相談事があれば父はサッと腕時計をみて「はい!今から10分」と言って時間を区切ったりしたものだ。
だから食事もサッと食べて次の行動に移る(つまり練習とか勉強)と嬉しそうに微笑んだ。
そんな父であり、恩師であったから、早食いは当然であり自然な成り行きだ。
先日テレビ番組で密着取材を受けたとき、早食いが驚かれたが、驚かれることに私は驚いた。

さてそんな私だが、最近たまたま時間があり、普段おろそかにしている健康診断を受けようと、人間ドックで診ていただくことにした。
友達の病院だったので「この際全身くまなくやっちゃおうね」ということになり、胃と腸の内視鏡検査も同時に行ってもらった。「もしポリープがあればとっちゃうから」と言われ「それがいい。手っ取り早い!」と賛成、承諾した。
前日から胃腸を空っぽにするために下剤を飲む。
当日更に胃腸を綺麗になるまでひたすら下剤を飲み、意識がもうろうとする薬によっての内視鏡検査なので痛みは感じない。
しかし医師の話は聞こえるし理解出来る。で、腸内視鏡の時に「あるある」という声…「どうしようか、コレ、取っていいんだよね!?」と話してる。「どうぞ取ってください」と言おうとしたとき、取り始めた様子がわかった。
果たして胃と腸にポリープ~
その後3日間お粥、1週間運動禁止、2週間お酒禁止~
医師から「よく噛んで食べるように。30回が目安です。早食いは胃腸を痛めますからやめてください」。
反省。
30回噛んで食べるなんてことは私にとって試練この上ない。
どうしたら30回我慢出来るか、悩んだ末思い付いたのが「その場を離れる食事法」だ。一口入れたらモグモグ噛みながら立ち上がり、お箸の届かない場所へ移動して口の中の食べ物がなくなるまで戻らない手法だ。外食の場合は、お箸を置く。
今のところ、この方法でなんとか30回噛んでいる。いつまでやっていけるかな…。